エジプトでパピルス作り体験。子どもが学ぶ古代の知恵と象形文字
エジプトでのパピルス作り体験がもたらす学び
エジプト文明は、子どもたちが歴史の教科書や図鑑で初めて触れる世界の古代文明の一つです。ピラミッドやスフィンクス、象形文字など、その神秘的なイメージは子どもたちの好奇心を刺激します。しかし、書物の中の知識だけでは、その文明がどのように築かれ、どのように人々が暮らしていたのかを具体的に想像することは難しいかもしれません。
子連れでのエジプト旅行において、私たちは古代エジプトの知恵の一端に触れる体験として、パピルス作りを選びました。これは単なる土産物選びではなく、書記媒体の誕生とその技術的な側面を学ぶ貴重な機会になると考えたためです。
体験の詳細:パピルス工房での一日
私たちが訪れたのは、カイロ市内に位置する観光客向けのパピルス工房でした。このような工房は、ルクソールなど他の観光地にも複数存在します。多くの場合、入場は無料で、職人がパピルスができるまでの工程を実演してくれます。体験プログラムとして、実際にパピルス紙に絵付けをすることも可能です。
工房ではまず、パピルスの原料となるカミガヤツリ(パピルス草)の茎がどのように処理されるのかを見学しました。緑色の外皮を剥がし、芯の部分を薄くスライスし、水に浸けて糖分を抜く作業、そして互い違いに並べてプレスし乾燥させる工程が目の前で行われます。職人の方が英語で丁寧に説明してくださり、通訳の方が日本語で補足してくれました。
見学後、私たちは子どもと一緒にパピルス紙への絵付け体験を選びました。工房には様々なサイズのパピルス紙と、古代エジプトの神々や象形文字、壁画のレプリカなどが用意されており、それらを見本にしながら絵を描くことができます。水彩絵の具と筆が用意されており、自由に描く、または下絵が描かれたパピルス紙に色を塗ることもできます。
体験にかかる時間は、見学を含めて1時間から1時間半程度でした。絵付け体験の費用は、パピルス紙のサイズによって異なりますが、小さなものであれば1枚あたり1000円程度から体験できます。予約は不要な場合が多いですが、事前にウェブサイトで確認するか、旅行会社のツアーに組み込むことも可能です。子連れでの参加も歓迎されており、工房のスタッフは子どもにも優しく接してくれました。
体験中のエピソードと子どもの反応
工房に到着してまず驚いたのは、パピルス草の大きさでした。想像していたよりもずっと太く、子どもたちはその場で触らせてもらい、生命力を感じているようでした。職人さんが手際よく茎を処理していく様子を、子どもたちは食い入るように見つめていました。「これが紙になるの?」と目を丸くし、水に浸けられたスライスやプレス機にかけられた後の変化に驚きの声をあげていました。
特に印象的だったのは、絵付け体験での集中力です。普段はすぐに飽きてしまうこともある子どもたちが、パピルス紙を前にすると真剣な表情になり、何を描こうか、どの色を使おうかとじっくり考えていました。古代エジプトの神々や象形文字の見本を興味深そうに眺め、「この絵は何を意味するの?」「どうやって書くの?」と質問する姿も見られました。自分だけのパピルス紙に色を乗せていく作業は、子どもたちにとって特別な体験だったようです。完成した時には、誇らしげな笑顔を見せてくれました。
体験を通じた子どもの学びと成長
このパピルス作り体験を通じて、子どもたちは書物だけでは得られない多くの学びを得たように感じます。
まず、古代エジプト文明が非常に高い技術を持っていたことを実感として理解しました。単に「文字があった」という知識だけでなく、その文字がどのように記録されていたのか、植物という自然の素材を加工して書記媒体を生み出した古代人の知恵や工夫に触れることができました。現代の紙とは全く異なる製法で作られるパピルスを見ることで、技術の進化や文化の多様性について考えるきっかけになったようです。
次に、象形文字や古代エジプトの図像への興味が深まりました。体験後、博物館で本物のパピルスや壁画を見た際に、「これ、あの時作った紙と同じだね!」「この絵、さっき見た見本にあったよ!」と興奮しながら話していました。自分自身の体験と結びつくことで、歴史的な遺物がより身近でリアルなものとして感じられたようです。象形文字の意味を尋ねたり、神々の名前を覚えようとしたりする姿も見られ、知的好奇心が刺激されていることが分かりました。
また、手仕事の楽しさと集中力を養う機会にもなりました。職人技を見ることで、一つのものを作り上げるには根気と技術が必要であることを感じたでしょう。そして、自らの手でパピルス紙に絵を描く作業は、デジタルでは得られない集中力と創造性を育む時間となりました。完成したパピルス紙は、子どもたちにとって単なるお土産ではなく、自らの手で作った作品、そしてエジプトでの学びの証となりました。
親として感じたこと、考察
この体験を選んで良かったと感じたのは、子どもたちが古代エジプトという壮大なテーマを、身近な「紙」という切り口から具体的に理解できたことです。歴史上の出来事や抽象的な概念を、子どもが自分の五感を使って体験できる機会を提供することは、深い学びにつながると改めて実感しました。
パピルス作りは、古代の人々が自然とどのように向き合い、知恵を絞って生活や文化を築いてきたのかを考える良いきっかけとなります。現代の便利な生活が当たり前ではないこと、過去の人々の努力の上に私たちの世界が成り立っていることを、子どもが感じる手助けができたのではないかと思っています。
子連れで体験する際の注意点
パピルス工房での体験は、比較的短時間で終わるため、子どもの集中力を維持しやすいでしょう。しかし、工房内には高価な展示品も多くありますので、子どもが走り回ったり騒いだりしないように注意が必要です。
また、絵付け体験は水彩絵の具を使用するため、汚れても良い服装で参加するか、エプロンを持参すると安心です。工房によっては、絵付けスペースが屋外や半屋外の場合もあるため、時期によっては暑さや虫対策も考慮しましょう。
体験後には、必ずお土産のパピルス紙購入を勧められます。品質や価格は工房によって異なりますので、複数の工房を比較検討するか、信頼できる工房を選ぶことをお勧めします。子どもが自分で絵付けしたパピルス紙は大切な記念になりますが、それ以外の購入は必須ではありません。
まとめ
エジプトでのパピルス作り体験は、子どもたちが古代文明の知恵や技術に触れ、歴史をより身近に感じられる貴重な機会です。単なる観光では得られない、手仕事を通じた異文化理解と、古代エジプトへの深い興味を引き出す学びが得られることでしょう。エジプトを訪れる際には、ぜひ子どもたちと一緒に古代の書記媒体作りに挑戦してみてください。