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メキシコでザポテコ族の織物体験!子どもが学ぶ手仕事と色彩の世界

Tags: メキシコ, オアハカ, 織物, 伝統工芸, 子連れ海外旅行

メキシコ・オアハカ近郊で出会ったザポテコ族の伝統織物

メキシコ南部に位置するオアハカは、豊かな自然と多様な文化が息づく土地です。特に先住民文化の影響が色濃く残っており、その中でもザポテコ族によって受け継がれる伝統的な織物は、その美しさと技術で世界的に知られています。私たちは、子連れでのメキシコ旅行において、単なる観光地巡りではなく、こうした地域固有の文化に深く触れる体験を求めていました。その中で、オアハカ近郊のテオティトラン・デル・バジェという村で、ザポテコ族の伝統的な織物工房を訪れる機会を得ました。

この村は、代々織物によって生計を立てている家が多く、村全体が一つの大きな工房のような雰囲気を持っています。私たちが訪れたのは、家族で工房を営むホセさんの家でした。ここでは、現代的な染料ではなく、昔ながらの天然染料を用いて糸を染め、手織り機で絨毯やタペストリーを織っています。子連れで異文化を体験する場所として、五感を使い、人々の暮らしに触れることができる織物工房は、大変魅力的に感じられました。

体験の詳細:天然染料に触れ、手仕事の奥深さを知る

ホセさんの工房では、観光客向けに短時間の見学と簡単な染め体験を提供しています。予約は不要でしたが、事前にメールで子供同伴であることを伝えておくとスムーズでした。体験は1時間程度で、費用は一人あたり約200ペソ(約1200円)でした。子連れでも参加しやすいように、工房の一部に休憩できるスペースが設けられており、子供が飽きないように、実際に触れることのできる染料サンプルなども準備されていました。

体験はまず、工房の見学から始まりました。様々な大きさの手織り機が並び、カラフルな糸が棚いっぱいに積まれています。次に、天然染料について説明を受けました。ホセさんが、サボテンに付く虫「コチニール」から赤やピンクの色が生まれること、インディゴ(藍)からは青、ザクロの皮からは黄色、ナッツの殻からは茶色など、様々な植物や自然物から色を取り出す方法を実演して見せてくれました。特にコチニールが小さな虫であることには、子供も大人も驚きの声をあげていました。

その後、実際に羊毛の糸を手に取り、用意された天然染料の液に浸して染める体験をさせてもらいました。小さな子供でも安全に行えるよう、温度も調整されており、ホセさんが丁寧にやり方を教えてくれました。最後に、大きな手織り機で実際に織る様子を見せてもらい、簡単な操作を体験させてもらうこともできました。

子どもの反応と体験中のエピソード

工房に足を踏み入れた瞬間から、子供は興味津々でした。壁一面に飾られた色とりどりの織物や、天井から吊るされた糸の束に目を輝かせていました。天然染料の説明では、特にコチニールから鮮やかな赤色が生まれる様子に驚き、「虫からこんな色ができるの?」と何度も質問していました。実際に染料に糸を浸し、色がみるみる変わっていく様子を見た時には、「魔法みたいだね!」と興奮した様子でした。

手織り機で織る様子を見た時には、その複雑な動きと速さに圧倒されていました。「どうしてこんなにたくさんの糸を操れるの?」と不思議そうに尋ねていました。実際に少しだけ緯糸を通す体験をさせてもらうと、「難しい!」と言いながらも真剣な表情で取り組んでいました。

ホセさんの家族は皆温かく、子供にも優しく接してくれました。子供が言葉を話せない私たちに、身振り手振りや簡単な英語で一生懸命説明しようとするホセさんの姿を見て、言葉が完璧に理解できなくてもコミュニケーションはできるのだと感じたようでした。工房の片隅で遊んでいたホセさんの子供たちと、言葉は通じなくてもお互いに持っているおもちゃを見せ合って笑っている場面もあり、自然な異文化交流が生まれていました。

体験を通じた子どもの学びと成長

この織物工房での体験は、子供にとって多くの学びの機会となりました。

第一に、「手仕事」が生み出す価値について学ぶ機会となりました。機械ではなく、人の手によって糸が紡がれ、染められ、織られていく一連の工程を見ることで、一つの物が完成するまでにどれほどの時間と労力がかかるのかを知りました。普段、当たり前のように身の回りにある布製品が、誰かの手によって作られているのだということを実感したようです。「大変だね」と言いながら、ホセさんの仕事ぶりに敬意を表しているように見えました。

第二に、「色彩」の多様性と自然との繋がりについて学ぶことができました。普段目にしている色だけでなく、自然界の様々な素材から美しい色が生まれることを知りました。虫や植物が染料になるという事実に触れ、「この色はどこから来ているの?」と、身の回りの色に興味を持つきっかけになったようです。自然の恵みを活かして生活する人々の知恵と工夫を感じ取ったようでした。

第三に、「文化」の継承について考える機会となりました。何世代にもわたって織物の技術と天然染料の知識を受け継いできたザポテコ族の人々の存在を知り、伝統を守ることの意味合いを少し理解したようでした。工房の人々が誇りを持って自分たちの仕事について語る姿を見ることで、自分のルーツや文化を大切にすることの意義を感じ取ったかもしれません。

この体験を通じて、子供は単に物を見るだけでなく、触れる、嗅ぐ、聞くといった五感をフルに使いました。また、言葉の壁を越えた人との触れ合いを通じて、コミュニケーションの多様性や、相手に寄り添う気持ちの大切さを感じたようです。

親として感じたこと

私たち親にとっても、この体験は非常に価値のあるものでした。大量生産・大量消費の社会に暮らしていると、物を作る過程やその背後にある人々の存在を意識する機会は少ないものです。しかし、この工房で、一つ一つ丁寧に手作業で生み出される織物や、自然の恵みを大切にする人々の暮らしに触れることで、物に対する価値観や、持続可能な生き方について改めて考えるきっかけとなりました。

子供が天然染料に驚き、手織り機に目を輝かせ、工房の人々と心を通わせようとする姿を見ながら、こうした本物の体験こそが、子供の心に深く響き、豊かな学びをもたらすのだと実感しました。単なる知識の詰め込みではなく、体を使って感じ、心で受け止める体験は、子供の好奇心を刺激し、多様な価値観を育む上で非常に重要であると感じています。

まとめ

メキシコ・オアハカ近郊のザポテコ族織物工房での体験は、私たち家族にとって忘れられない思い出となりました。天然染料の鮮やかな色彩、手仕事の温かさ、そして人々の温かい心に触れることができ、子供は「物ができるまで」の過程や「自然の恵み」の大切さを学び、豊かな感性を育むことができたと感じています。

こうしたローカルな文化体験は、ガイドブックに載っている有名な観光地を巡るだけでは決して得られない、その土地の息遣いを感じる貴重な機会です。子連れでの海外旅行を計画される際には、ぜひその土地ならではの伝統工芸や人々の暮らしに触れる体験を取り入れてみてはいかがでしょうか。子供たちの「学びたい」という気持ちを刺激し、旅をより深く、実りあるものにしてくれるはずです。